こんにちは、 発毛専門医 です。
松本人志さんがテレビで、「(自分は)左利きであり、右利きの人より寿命が9年短いねん」と発言をしていました。
松本さんには申し訳ないですが、この説は“怪しい”という話をしたいと思います。なので、左利きの人は安心しながら読み進めてください。
オレたち左利きは右利きの人より約9年ほど短命らしい。。。
— 松本人志 (@matsu_bouzu) March 2, 2018
やさしくしてね。
はたして、左利きの人は右利きの人に比べて早死にするのでしょうか。

なぜか、左利きの人はやり玉にあげらる
左利きの人は、昔からときどき槍玉に上げられてきました。その理由はわかりません。
私の推測ですが、ピカソ、モーツァルト、ダヴィンチ、アインシュタインといった歴史上の超天才は、みな左利きです。
人々は「左利き」の人たちに何か嫉妬も含んだ、“神秘的なもの”を感じていたのかもしれません。
左利きの人はアレルギーになりやすい?
やり玉にあがった例としては、1982年に発表された研究で、「左利きの人は免疫系の病気(アトピー皮膚炎など)になりやすく、偏頭痛・発達障害になる確率が高い」と言われていました(参考論文)。
『右利き、左利き』の著者クリス氏によると、89個の研究を横断的に分析して、50,000人以上の研究データを精査した結果、“左利きが免疫疾患にかかりやすいという傾向はみられませんでした”。
左利きだからといって、アレルギーになりやすいわけではありません。気にしないでください。
左利きの人は9歳も短命という謎の学説
次は、寿命の研究をみてみましょう。1980年から1990年にかけて、アメリカで行われた研究では「左利きの人は右利きの人に比べて、平均で約9年短命である」という学説が発表されました(参考論文)。
しかも、科学界きってのトップジャーナル「Nature」「New England Journal of Medicine」に掲載されたのです。
一流の科学者にも、一度は認められた学説になります(各メディアでも取り上げられ、ちょっと前に日本でも流行りました)。
短命となる理由の説明は、「社会は右利きの人が便利なように作られているので、左利きの人にとってはストレスがたまり、短命になるから」というもの。
「右利きの環境がストレスで10年も短命に??」ちょっと考えたら、おかしいとすぐわかることも、1990年に発表されたときは、一流の科学者たちの多くがだまされていたのです。
10年短命とは、1日に120本タバコを吸い続けるに等しい悪影響です。ストレスでそこまで悪影響があるのでしょうか…
冷戦もおわったばかりで、アメリカ人たちは平和ボケしていたのかもしれません。
もちろん最近では、この左利き短命説は、“間違っている”と考えられています。
寿命の調査方法が問題だった
ではこの研究では、何が問題なのでしょうか?問題は、“寿命の調査方法”でした。
研究を行ったHalpern氏とCoren氏が取った調査手順はこうです。
- 最近亡くなった人をリストとして抽出する
- 死んだ人の家族と連絡を取る
- 亡くなった方が左利きだったか、右利きだったのか聞く
- 結果を集計する
2,000件にもわたるヒアリングの結果、「左利きの人の死亡年齢は、右利きの人よりも平均して約9歳若かった」ことが判明しました。
この結果に基づいて、研究を実施した2人は、「左利き=短命」と発表したのです。
この調査のどこが問題なのでしょうか?
左利きの人が短命という結果が出た理由
答えは、この表(『右利き、左利き』より引用)にあります。
アメリカ人の誕生年ごとの「左利き」のパーセンテージです。

注目すべきは、左利きの人は、1910年生まれでは4%前後だったのが、1970年生まれでは、12%前後まで増加していることです。
調査対象の左利きの割合が新しくなるにつれて増えているので、ある時点で死亡者の年齢を調べると、左利きの平均年齢は少なくなってしまいます。
分かりにくいですよね。極端な例として、仮に1900-1970年まで左利きの生まれた人は0%と考えてみてください。1900-1970年の間は右利きが100%です。
そして、2019年に死んだ人を調査してみましょう。どうなるでしょうか?
[右利き] 1910年生まれ(109歳) 1915年生まれ(104歳) 1920年生まれ …
[左利き] 1971年生まれ(48歳) 1972年生まれ(47歳)
あら不思議!左利きの人の平均寿命は若いわね!
これをみて、左利きの人が短命だ!早死にする!と結論づける人はいないでしょう。
極端な例ではありますが、この調査方法は、調査対象の割合が一定のときは使えますが、今回のように変化があると無意味な研究になります。
(補足:左利きの割合が違う理由としては、アメリカにおける社会的な背景があったのだろうと推測されます)
最後に
テレビの影響力は大きいです。松本人志が、左利きは短命!といえばそれを信じる人も増えるでしょう。
左利きが短命はというのは、今のところ“迷信”です。
ただし、左利きの人はやり玉に上がりやすいことを考えると、松本人志がいうように、「(左利きの人には)やさしくしてね」というのは間違っていません。
やはり彼は天才なのかもしれません。
当ブログでは、医学的な根拠に基づいて、迷信を解説しています。他の記事も見てみてください。
参考書籍と論文リスト
1982年に発表された学説(左利きのほうが免疫に問題あり)
研究手法が複雑(胎児期のテストステロンのホルモンバランスに注目している)で、科学的な根拠としては弱いものになっています。
1991年に発表された学説の論文(左利きのほうが寿命が短い)
左利きのほうが9年寿命が短いと唱える論文です。上述の通り、調査手法に問題がありました。
書籍『右利き、左利き(英語)』
左利きのことについて、もっと詳しく知りたい人はこの本を読みましょう。平易な英語で書いてあるため、読みやすいです。