こんにちは、 発毛専門医 です。
診療をしていると、たまに聞かれる質問があります。
「体毛が濃い人は薄毛になりやすいのですか?」という質問です。結論からお伝えすると、「体毛が濃い人が薄毛になりやすい」という医学的根拠はありません。
ただし、以前に比べて急に体毛が濃くなってきた場合や女性で体毛が濃い場合では、別の疾患が隠れている可能性もあり、注意が必要です。
この記事では、薄毛の原因のひとつである男性型脱毛症(AGA)と体毛の関係に焦点をあてて解説します。
体毛が濃いかどうかの基準とは?
そもそも体毛が濃いかどうか、というのは極めて主観的な基準です。
少し毛が生えているだけで、体毛が濃いという人もいれば、全身毛むくじゃらなのをみて初めて体毛が濃いという人もいるでしょう。
なので、「体毛が濃いかどうか」を判断するためには、体毛の生えている密度を調べる必要があります。普段の生活でだれもそんな密度を測ることはないですよね。
(ちなみにヒゲの場合は、1平方センチメートルに約100本程度生えていると言われています)
AGAの原因となるDHTは体毛を濃くする
男性型脱毛症(AGA)の原因となるホルモンは、ジヒドロテストステロン(DHT)といわれます。
DHTを含めた男性ホルモンが過剰になると、体毛が濃くする作用があります。
DHTは、ヒゲや体毛を濃くする一方で、毛髪は薄くしてしまうのです。
体毛を濃くするDHTが薄毛を引き起こす理由
ところで、ヒゲや体毛を濃くするDHTがなぜ、頭髪では薄毛を引き起こすのでしょうか?
体毛でも頭の毛でも、毛の根元には、「毛乳頭細胞」とよばれる細胞があります。同じ細胞なのですが、体毛と毛髪とでは、DHTに対する反応が異なるのです。
ヒゲや体毛では、「毛乳頭細胞」にDHTが結合すると、毛の成長因子の一つであるIGF-1という物質が分泌されます。
一方で、頭皮の「毛乳頭細胞」にDHTが結合すると、毛の成長をさまたげる物質(TGF-β等)が分泌されることが分かっています。
体毛が濃くなる原因はDHTだけではない
体毛が濃くなる原因は、思春期の性発達であったり、物理的な刺激であったり、と様々で、DHTだけでは説明できません。
つまり、体毛が濃いからと言って、DHTがたくさん出ているかどうか?は別問題であることに注意してください。
体毛の急激な変化は要注意
前述の通り、体毛が濃いかどうかは主観的であり、明確な基準がありませんが、あえてあげるとすると、注意するべきなのは、“自分の体毛が以前に比べて急に濃くなってきている時”です。
思春期の場合は、性の発達にともなって、体毛が濃くなったり、声が低くなったり、ペニスや睾丸がおおきくなるのは、正常な反応です。
ところが、成人してから急に体毛が濃くなったりした場合は、何かしらのホルモンバランスが崩れ、男性の場合、その原因がAGAである可能性もあります。
女性の場合、副腎だけではなく、卵巣という臓器でも男性ホルモンの量が調整されているため、ホルモンバランスが大きく崩れるときは、卵巣の病気であることもあります。
成人の男性・女性にとって、“急に体毛が増えたかどうか”はひとつの注意すべき症状のひとつでしょう。
体毛が濃いからと言って、AGAになるわけではない
体毛が濃いかどうかは、遺伝であったり、思春期の性発達の過程の影響が大きいと考えられます。
体毛が濃い人も、薄い人も、AGAになる可能性があります。
ですので、自分の体毛が濃いからといって、そこまで心配なさらなくてよい、というのが個人的な見解です。
実際、体毛がほとんどない方でも(私の主観ですが)、典型的なAGAパターンで頭頂部の薄毛が進行してしまう方もいます。
そして、AGAパターンの薄毛が進行していても、体毛がそこまで濃くない人もいるのは、人体の不思議といえるでしょう。
AGAで体毛が濃くなってきた人は、治療が原因で濃くなっていることもあり、参考記事『AGA治療による体毛増加』を読んでみてください。
今日はここまでです。
“体毛が他の人に比べて濃いかどうか”はそこまで気にせず、“急に体毛が増えたかどうか”を基準に体毛をみてみると良いでしょう。